紅葉と言えば秋ですが、鎌倉の紅葉は少し見頃の時期がずれ込んでいることから「冬紅葉」と呼ばれます。大抵は師走から新年にかけて見頃を迎え、野山が優しい紅や黄色に覆われます。
鎌倉の台峯緑地は縁結びの神様神社にもご挨拶できる
見どころと言えばとてもありますが、鎌倉市の中でも大船・北鎌倉地域に生まれ育った筆者としては、台峯(だいみね)緑地の紅葉が美しいのです。JR横須賀線の北鎌倉駅で下車し、幹線道路を大船方面へ進むと、すぐに出て来る十王堂橋を左折。そこから道なりに上っておよそ5~10分。
その一帯を瓜ガ谷(うりがやつ)と呼び、坂の両側に迫る豊かな山々と、振り返って眺める北鎌倉・大船・横浜の景色は、四季折々に楽しめます。坂を上りきると左手に縁結びの神様・葛原岡(くずはらおか)神社への案内があり、こちらはこちらで紅葉の名所である源氏山公園が有名ですが、今回は割愛します。
もう少し道なりに進むと、今度は右手に分かれ道が見えますので、それが台峯緑地への入り口(の一つ)です。ここでは紅葉を間近に見る楽しみと、時折景色の開けた場所から、JRの線路を挟んで対面の山々に包まれた神社仏閣がとりどりの暖色に彩られる様子は、なかなか見られない風景です。
台峯緑地はバードウォッチングでも人気スポット
散策していると、道が各所でいくつも分岐していますが、どれを選んでも住宅街に出られますから、明らかな獣道以外なら、そんなに悩まず歩くことが出来ます(別に獣道も楽しい、と言うより、それこそが醍醐味と言いたいところですが、低山でも遭難する事例がありますから、無責任な事は言えません。土地勘の無い方はご無理なさらず)。
また、少し茂みに閉ざされがちな道ではありますが、台峯の谷戸を下りて行くと大きな池を見つけることが出来ますが、これが倉久保の谷戸池です。かつてこの一帯が農村だった江戸時代に貯水池として作られたこの池もまた、豊かな山々に囲まれていますが、紅葉の時期になると、その水面がやはり暖色に彩られます。
暫く眺めていると、静まり返った水面に、時折カワセミ等の野鳥が飛び込んで魚を捕らえますが、その時に起こった波紋がゆっくりと水面を揺らし、穏やかに歪む紅葉の空は、一見の価値を請け合います。
バードウォッチングや山菜採りの方もしばしば訪れますが、彼らもまたその景色に心洗われていることでしょう。この辺りでは昔、タヌキやイタチ、まれに野ウサギ等も見られましたが、最近ではもっぱら外来種のハクビシンやアライグマ、タイワンリス等が闊歩するようになり、その生態系も大きく変わってしまいまいました。
顔ぶれこそ変わっても、様々な生き物たちが元気に駆け回っている姿を運良く見かけたら、それもまた楽しい体験となる事でしょう。また、先述の通り多くの野鳥も姿を見せ、その歌声もまた、紅葉鑑賞を豊かなものにしてくれます。
台峯緑地から歴史と自然を奪おうとする。
このような台峯緑地ですが、現在、存続の危機に晒されています。鎌倉と言えば「三方を山に囲まれ、南には海が広がり……」という地形が特徴であるように、豊かな自然に包まれた街です。にもかかわらず、鎌倉市ではこの数十年来、台峯緑地を縦断する道路計画が持ち上がり、住民の根強い反対に遭いながらも、隙あらば強行しようとばかりに「保留」の態度を崩していません。
鎌倉と言えば「歴史」と「自然」に象徴されるほど、その恩恵を享受しておきながら、自分たち一代の利権によってそれを食いつぶそうとする態度は、決して受容できるものではありません。こうした破壊を防ぐのは、何よりも人々の興味関心であり、それを高めてこそ、乱開発に目を光らせて大切な自然を守り、次世代に受け継いで行けるものと考え、今回紹介させて頂いています。鎌倉自慢の紅葉スポット、一人でも多くの方に訪れて頂き、ご堪能頂けましたら幸いです。